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つまりそういうこと

カズオ・イシグロ 「わたしを離さないで」 読書感想文

どうも、僕です。
今回はカズオ・イシグロ「わたしを離さないで」でございます。ノーベル賞をとったのはこの作品のせいだからとも、言われております。
要約しようと思ったのですが、非常に難しい。この作品は一本の話を順序もバラバラにして、さりげなく小出しにしていき、読者に世界観を理解させる話だからです。
主人公のキャシーの一人称で話が進んでいきます。彼女がある人を介護しているところから、話が始まって、子ども時代を過ごしたヘールシャムという施設での回想、卒業のコテージでの回想、最後は友達のルースとトミーを介護していくという構成になっております。
ネタバレしちゃうと、面白さが減るので、今後読む気がある人はこれ以上読まない方がいいかもしれません。














へールシャムの生活で一番キャシーの心に残っているのは展示会で、生徒たちはそれに向けて一生懸命に詩や、歌や、絵や、道具を作っているわけです。その作品たちの中でもマダムと呼ばれる謎の人物が一番いいと思ったものを持っていくのですが、持っていかれなかった余りは生徒たちが交換して宝物にしていたのです。
こうした生活の中、一人だけいじめられていたトミー。いじめられると癇癪を起して暴れまわるのを面白がって常にからかわれていたのです。大元の原因はトミーが作品を全く作っていなかったことで、それが次第にエスカレートしていったというのです
 しかし、急にある日からトミーが全く癇癪を起さなくなって、いじめもなくなったのです。キャシーが理由を聞くと、ルーシー先生に「作品なんて作らなくていい」と言われてからすっきりしたおかげだそうです。
 そんなルーシー先生は途中で生徒全員に言い出します。「あなた方に将来はない。わかっているのか?」と。
 生徒たちは知らず知らずのうちに、将来提供することを教えられていたのですが、刷り込まれていたので、無邪気に夢を語っていたのです。だから、ルーシー先生は耐えられずに怒ったのでした。
 そんな中で、マダムが自分たちを見る眼が、蜘蛛を見つけたようなものだということに気づきます。
 こんな感じで、徐々に世界を知っていく、キャシー。気づけばルーシー先生はクビになっていました。
 
 結局、みんなバラバラになってコテージと呼ばれる、社会人になる前の生活の場に移動させられます。キャシーと一緒だったのはトミーとルースと残り二人くらいのモブ。
 そこで、ポジブルと呼ばれる彼らの「親」を追いかけます。その最中に、へールシャム出身の愛し合う二人が申請すれば三年は自由でいられるという噂も耳にします。 
 トミーはこうしたすべてを聞いてある考察を立てます。まず展示館の目的について。そもそもマダムが自分たち子どものしょうもない作品を毎回集めに来るのはなぜなのか?という疑問です。金にもならないし、本当に立派な芸術作品から見れば、ただのガラクタだからです。
 彼の出した答えはこうでした。作品は人の心を映す。だから、作品を集める。そして、愛し合っているという二人が猶予をもらいに来た時に、本当に愛し合っているか判別するためにそうした知識のない子ども時代に作品を作らせているんだ、と。それで絶望したトミー。作品を一つも作ったことがなかったからです。なんとか希望をもって地道に絵を描きはじめます。
 最後はコテージでみんなと仲たがいしてキャシーは介護人になります。

 十年くらいたって、ルースの介護をします。
 そこで、ルースはトミーとキャシーを連れて外出し、二人にマダムに会うように住所の書いた紙を渡します。三年の猶予を二人に与えるためです。
 ルースが死んで二人がマダムの元を訪問すると、猶予なんてものはないと告げられます。展示会は実際にありましたが、それはクローンの子どもたちに人道的配慮をするように仕向けるための作戦だったのです。今でも障害者に物を作らせて、普通の人間なんだってアピールするでしょ?あれよあれ。
 しかしクローンの場合はそうはいかなかった。その臓器のおかげで、今まで難病と言われてきた病気が治るようになってしまったから、今更人道的配慮なんてものはできないのです。更に、世の中の人はこうした犠牲のもとに成り立っていることから目を背けたいがゆえに、作品の展示会なんてものから目を背けたくて仕方がない。だから、最終的にはへールシャムも閉鎖され、これからクローンはもっとひどい目にあうだろう、というのです。
 まぁそんなわけで、トミーは臓器提供を四回して死にます。
 
 あぁ残酷な世界だ。ということで終わるわけ。

 
 いや~なかなか面白かったですね。クローンが本気で世の中に出てきたらどうなるかっていうのを上手く表現してる。特に世間の人間が、クローンを犠牲にして生きていることを見ないふりをするところとか、すごくリアル。
 実際にクローンが出来たら、代わりに人間が不幸になっているとしても、間違いなく何か人間じゃないという理由をつけて、目を背けるに違いない。それでマダムのような人が、何かしら活動をするかもしれないけど、世の多数は間違いなく目を背けると思う。
 大変グロテスクなお話でした。