うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

もう二年

 人生が早すぎる。久しぶりに焦燥感を感じている。
 朝五時半に起きて、アズールレーンを起動。スマホの光で目を覚ましながら布団を出て、冷蔵されたおかずをレンジで加熱する。半分は弁当に、半分は朝ごはんになるから、毎日二食は全く同じものだ。無表情で髪を整え、歯を磨き、スーツに着替える。ここまで三十分。それだけでは間に合わないので、走って駅まで行く。一時期俳句を作るために、周りを観察しながらのんびり歩いていたが、あんな気の迷いは捨て去った。今では俳句作りができる人間は、夏目漱石のような親の遺産で生活できる高等遊民か、国民から搾取して生きる天皇か、平安貴族か、年金暮らしの年寄りだと確信している。要するにすねかじりの趣味なのだ。
などと考えつつ、電車に乗る。当然の如く端っこで眠った。駅に停車してドアが開くたびに寒さのあまりわずかに目が覚めるくらいで、いたって快眠だ。
 しかし平穏の中、唐突に僕は起こされた。頭にけつが当たっている。よくいるだろ?立ったまま座席の壁に寄りかかって体を固定するやつ。普通に座っていれば、障害になることはなかったのだが、壁の上に頭の乗せて眠っていたから、いちいち服にすれて、髪がくしゃくしゃにされた。おっさんの尻が頭に当たるとかいう罰ゲームは勘弁してほしいものである。おまけに髪もくしゃくしゃにされ、僕の怒りは頂点に達した。今回だけではなかった。過去にも何回かおっさんがぶつかってくる状況に遭遇したことがあって、何度も快眠を妨げられてきた。
 積年の恨みが僕に次の行動を起こさせた。頭で寄りかかっているおっさんを突き飛ばす作戦である。僕は一度頭をひき、助走をつけて頭突きをかました。あくまでも、電車に揺られて自然にやっているというスタンスは維持したままである。まさか小心者の僕に正々堂々やる勇気はない。
 結局、こうした努力は意味をなさなかった。全く移動する気配はなく、頭をコートがすり続けた。最初は粘っていたのだが、徐々に僕の方が根負けして眠るのをあきらめ、本を読み始めた。集中できない。イライラしすぎて、一度おっさんの顔を見て、にらみつけなければ気がすまなくなってきていた。
 一度僕は様子をみるために左をチラ見した。
 「ん????」
 急に異変に気付いた。髪が長い。ブーツを履いている。これは・・・・。
 そう、僕が頭を擦り付けていたのは女性の尻だったのだ。興奮は最高潮に達した。無意識のうちに痴漢もどきのことをやってしまっていたのだが、そんなことは気にせず、僕は頭を擦り付けた。もちろん、全く気付いていないという演技はつづけた。
 今日ほど女性の尻に接した日はなかっただろう。元カノだろうが、風俗だろうが、ここまで尻に頭を擦り付ける経験はできないものだ。
 目的の駅につき、僕は涙ながらに尻と別離した。持ち主の顔は最後まで見ることができなかったのだが、これでブスだったら悲しいので選択肢としては正解だっただろう。
 今日の僕の人生はエロスから始まった。
 終わり。