帰りのバスでの出来事。残業禁止と言いつつも、普通に残業が伸びる日々。全く知らなかったことで急に怒られ、社会の理不尽さを久しぶりに感じた今日の話。
田舎のバス停は酷い。屋根がついているのだが、平気で雨漏りしている。当然直す気はない。誰も直せと言わないのだろう。
バスがやってくると、定期をかざして、一番前の一人席に歩いていく。
「バス動きまーす、お気をつけて~」
まだ座ってないのに、動き出すバス。僕は思い切り壁に頭をぶつけた。
「あ、ごめんなさい大丈夫ですか~?」
接客の酷い岐阜バスの割にはちゃんと言えるじゃねえか、と感心しつつ
「大丈夫です」
と答えると
「あ、大丈夫ですか~」
と軽く答えられた。なんだかなぁ・・・。もっと言い方あるよなぁ・・・。と思ったが、普段の運転手が酷すぎて、すぐにどうでもよくなった。既に耐性がついていたのだ。
そこからがラッシュだった。三つほど過ぎた後、
「あ、危ない!」
とバスの中を大声が響いた。何事だ?僕はスマホから目を離して、周りを見渡した。
「すいません見えませんでした~忘れてたわけじゃありません。すいません~」
どうやらバス停を無視したようだった。しかし、相変わらず謝り方の雰囲気が軽い。
またしてもバスが動き出す。
「動きますよ~お気をつけて~動きますからねぇ~」
ついさっきの僕の事故を反省してか、執拗に乗客に注意喚起する運転手。なかなかいい心がけだと感心しつつ、e hentaiでエロ画像を探していた。ばれないようにちんこは鞄で押さえつけている。お?いいぞこれ!そう思った矢先。
「あ~雨って滑るんですねぇ~」
との声が聞こえた。よく見ると、僕の体は横断歩道を超えていた。しかし目の前は赤信号である。つまり、滑って止まり損ねたのである。運転手は、雨も考慮に入れられないほどの初心者だった。穏やかなバスは一瞬で地獄へのチキンレースに変わった。
カーブが怖かった。滑って建物につっこむ気がした。横転する様子も脳裏をよぎった。教習所で僕に怒っていた教官の気持ちがわかった瞬間である。
しかし、そんな恐怖とは裏腹に20分は平穏な時間が続いた。僕は安心して、うとうとし始めていた。
「あ、忘れてました~すいません~次は〇〇でした~」
当然のごとく忘れた運転手だったが、もう何も感じなかった。たった一回の乗車でこいつのミスに慣れてしまったのだ。ちなみに執拗な注意喚起は停車の度に行われている。
「あれ?」
またしても僕の注意は運転手に向けられた。
「あの人カードの残高足りてないな、止めるの忘れちゃったなぁ~失敗したなぁ~うーんどうしよ~まぁいいか~」
などと言い始めた。ついに客から金を取ることさえ、できなくなってしまったようだ。目の前で万引きされても気づかないコンビニ店員がいるだろうか?まさにそれと同じことをこの男はやったのである。しかも、まぁいいかって、よくねえだろ!などと突っ込みながら内心笑ってしまった。
最初から最後まで、ガチガイジな運転手だったが、僕がバスから降りるときには大きな声で
「ありがとうございました!」
と挨拶してくれた。たぶん仕事はできないが、いい人なんだろう。エンタメドライバーとは彼のことを言うのだと思う。