うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

19 ちょっと修正

申し訳なさそうに聞いてくる。あまりに俺の態度が陰湿なので、無理矢理引きずり出したと思って罪悪感を感じているのだろうか。
「いや!めちゃくちゃ元気だよ!FOOOO!」
「ホント、気分屋だね」
スカイツリー最高に楽しみだよ!」
 俺は周りを全く気にせず、思い切り声を張り上げる。歩美はあまりのテンションの違いに驚きつつも、嬉しそうに笑っている。よくないことだ。ずっと暗い気持ちで静かにしていれば苦しみを味わうこともないし、平穏に自分の世界に引きこもっていられるのに、中途半端な相手を楽しませたいという良心が全てをダメにする。
 笹塚に停車し、乗客が押し寄せる。東京の電車は戦場だ。我先にと限られた席に座るべく、五感を研ぎ澄まして空席を探し、誰よりも早く座るために他者を押しのける。どうして座るためだけに必死になっているのか最初はわからなかったが、気づかぬうちに自分も仲間になっていたから、一種の伝染病なのかもしれない。そうして、たかが席を取るだけの為に弱肉強食の争いを終えたあと、本当の意味での弱者が立ち尽くすことになる。今もそうだ。電車とホームの間を飛び越すことすら手間取りながら、一人の老婆が入ってきた。弱者の為に用意された優先席も強者によって占領されている。俺のわずかな正義の心が震えた。
「あの、すいません」
「あの、すいません」
俺ともう一人の声が同時に響いて小心者はぎょっとする。歩美だった。
「まぁまぁ座って」
わざともったいぶって手で制止して、老婆の方に歩み寄る。
「おばあさん、この席どうぞ」
「ありがとうございます」
もはや水分の失われたしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしながら、お礼を言ってきた。隣の友人もニコニコしながらこちらを見上げている。なんとなく乗客の賞賛の目線も感じる。最高に気分がいい。イエス様は見てもらおうとして、人の前で善行をするな、それは偽善で神の恩恵を受けられない、などと言っているが、神なんて得体のしれない物体なんかより、誰かにいいと思われた方がいいと、こういう時つくづく思う。人のどんな試みも、結局、他者によく見られたいという目的に収束するのである。