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つまりそういうこと

読書感想文 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」

どうもこんばんは、僕です。

今回はカズオ・イシグロの「忘れられた巨人」について書きます。この人の小説は既に三冊目!!

芥川賞ってハズレだらけだけど、ノーベル文学賞ってのは本当にハズレがない。村上春樹を読んで、現代小説はダメだと思ってたけど、このおじさん読むと大丈夫だなって思いますね。

 

要約

むかしむかし、あるところにブリトン人のおじいさんとおばあさんがいました。山の中を掘って作った村にふたりはすんでいました。おじいさんはアクセル、おばあさんはベアトリスという名前でした。

あるとき、ベアトリスが自分に息子がいたことに気づきます。アクセルにそういうと、「そういや、いたかもしれないねぇ」と言って、二人は旅に出ます。

この国に住んでいる人は皆、記憶をなくしているのです。数日前にあったことなど、なかったかのように過ごすのです。だから、二人は息子がなんとなくどこにいるかは知っているけども、どうして出て行ったのかを知らないのです。

二人が旅を始めていると、徐々に疲れてきて、近くにある屋敷で休憩しようとします。屋敷の中はボロボロで半分は崩れてしまって、雨が入ってきています。中には二人いて、壁の方を向いて立ち尽くす男と、兎をなぶり殺している老婆でした。

ベアトリスが老婆にどうしてそんなに残酷なことをするのか?と聞くと、男に対する復讐だというのです。老婆は夫婦である特別な島に行こうとしたことがありました。そこは、何の苦労もせずに生きられる楽園です。しかし、不思議なことに他人に絶対に会えなくなるのだそうですが、本当に愛し合っている二人だけは一緒に暮らせるというのです。

男はその島への船頭で、一人ずつしか乗せていけないから順番に連れていくと言って、夫を連れて行きました。その後老婆はずっと待っていたのですが、結局戻ってこず、夫婦は離れ離れになってしまったのです。

実はその時船頭は、ある質問をして試していました。二人が昔話をするとき、共通の思い出を語れば、愛し合っていると認めたのです。忘却の霧で記憶を失っていた老婆たちは当然ダメだったのです。

まぁなんやかんやで、次の場所に向かう二人。

ある村に着くと、今度は鬼が出たと大騒ぎ。子どもを連れ去っていったというのです。屈強なサクソン人の戦士ウィスタンが子ども救います。ところがこの子どもをどうしても殺さなければならないと、村中大騒ぎ、それで老夫婦二人と戦士とこの子どもエドウィンが四人で旅を始めます。

そうこうしているうちに円卓の騎士のガウェインに会います。彼は雌竜クエリグを倒すために何十年も作戦を練っているのでした。が、結構だらだらしていて気づけば老人になっています。なんだかんだで別れて次は教会へ。僧侶たちに会い、忘却の霧は実はクエリグが吐いていることを知ります。

この四人はなんだかんだで死にそうになりますが、ガウェインが助けたりうんうんで生き残ります。

ウィスタンとエドウィンは二人で竜を殺しに行こうとします。アクセルとベアトリスもたまたま子どもに頼まれて殺しに行きます。

ところがどっこい、ガウェインが邪魔をしに来ます。実はクエリグはアーサー王の命によって、マーリンが魔法をかけ、忘却の霧を生み出していたのです。ブリトン人がサクソン人を戦争によって虐殺した記憶を忘れさせ、新たな戦争が起こることを避けようとしたのです。一方、ウィスタンは忘却の霧を掻き消すことで、サクソン人が忘れていた憎悪を思い出させようとしてやってきました。全てはブリトン人の国を征服させるためです。

忘却の霧によって二つの民族が共存していた村で、憎悪が復活し、その時サクソン人の軍隊が来れば、一気に征服できると考えたからです。

まぁそんなわけで二人が決闘してガウェイン死んで云々・・・。

記憶の戻った老夫婦は最後にあの船頭に会います。質問をされて、二人とも連れて行くという船頭。しかし、先にベアトリスを連れて行ってしまい・・・。終わります。

 

感想

今回の話は軽いファンタジーだと思っていたのですが、意外とそうでもない。忘却の霧によって平和が維持されているというところが、一番のポイントですよね。

平和を考えた時、どうしても過去が邪魔するんです。日本みたいに今更アメリカに文句言ったりしない国は珍しいです。どこの国もやられたことをずっと覚えています。今でも東南アジアの国で日本人が大嫌いな人はたくさんいますし、ジャップの右翼さんたちは逆に朝鮮人大嫌いですし。黒人差別を受けて、白人大嫌いな黒人だっています。

じゃあ、全て忘れて手を取り合おう!ってことは相当難しい。実は最後霧が晴れた後、アクセルはベアトリスが不倫したことを思い出すのです。それでも妻を愛しているという結論に至ります。自分にとって苦々しい出来事を完全に忘れ去ることは魔法でしかできません。一方で、受け止めた上で前に進もうとすることは現実でもできます。カズオ・イシグロはそれを示したかったのではないでしょうか?

 

そういや、「わたしを離さないで」でも同じような話ありましたね。本当に愛し合っている二人なら、3年間の自由を得られるみたいな話。今回は島でした。カズオ・イシグロのもう一つのテーマとして、真実の愛も語っているんでしょうかね。この作品の最後の老夫婦が船頭に島に連れられて行くシーンも、途中でどっちともつかずに終わって、最後の判断は読者に委ねられています。おかげで、二人の不倫もあり、大喧嘩したせいで愛想をつかして息子が出て行ったりと、家庭崩壊した夫婦が、最後には愛し合ったという事実を、どう判断するかという問題をこちらに放り投げられています。

結果良ければすべてよし!とすることもできるでしょうし、家庭崩壊したんだからどうよwって人もいるんじゃないですかね。

 

まぁ何はともあれ、こりゃね、僕も納得しましたね。実は小学生の時、僕も人権作文で過去にあった事実をいつまでも伝えるから、差別を残している!忘れたらいいじゃん!なんて書いたことありました。当然入選しませんでしたがwwwwwwww

最近はカズオ・イシグロに近くなってますね。平和ってのは大変難しい。過去の話もあるし、じゃあ過去を忘れたら平和になるかっていうとそうでもない。黒人を見たとき、一瞬身構えるあの感覚、皆さんも経験したことがあるでしょう。人ってのは異質なものを見たとき必ず最初に拒否反応が起きる。過去の積み重ねによって、それを乗り越えている部分もあるのです。

ただ乗り越える過程で憎しみを生んで、結局平和にはなれない。こんなジレンマがあるわけですよ。

あぁ人類は前向きに全て忘れて生きていけるんですかねぇ。終わり。