うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

運命の定義

 彼女に最初にあったのはとあるカフェ。婚活はカフェから始まるのだ。
 物静かだったが、所々細かい気遣いが感じられる、そんな女性であった。
 初めの会話は僕がリードした。出来るだけ自分の話をして、適度に質問をする。こんな技術がこの一年でついていた。
 その後、何回かデートを重ねた。デートは最初の方が相手が提案することが多かったが、あとから僕がほとんど決めた。
 とはいえ、僕一人でデートを無理して決めているという感覚はなく、所々相手のフォローが静かにあって、心地よかった。若干デートが横にそれると助けてくれた。あぁ、この人なら結婚も・・・、そう考えていたのであった。
 
 結局4回デートした。でも距離は縮まっていなかった。互いに互いのことを深く話したりしない、警戒心の強さがあって楽しく話はするけども、じゃあ実際に仲良くなったかというと難しかった。
 僕自身も彼女の心の壁に押されて余計に話が難しくなり、質問も少なくなり、ラインでしか推し量ることができなくなっていた。それでも彼女には好意を伝え続けた。好きとかそういった言葉も使った。下の名前で呼び、手を握る。
 彼女も僕に応えるように僕自身のことを質問し始めた。困るような質問が多くて、ラインを返すのに非常に困り、30分考えたこともある。でも、まぁようやくちょっとずつといったところではあった。5回目のデートが終わったら、今度はドライブでもっと話しようかな、などと考えてはいた。
 一方で僕も彼女との差を感じつつあった。生きる速度が違うのだ。僕は常に早く決断し、早く移動することが多い。対して彼女はちょっとしたことでも悩み、時間がかかる。僕は逆にそれならそれで合わせればいいと思っていたが、彼女にとってはそれが重荷に感じていたのだと思う。そういう性格だから惹かれたのである。
 
 だが、もう時間は迫っていた。
 最後のデート、楽しく話していたはずの帰り道、既に予兆はあった。
 毎回最後に次のデートの約束をする、相手は用意していたかのように日にちを指定する、場所は俺が決める。そういう流れだった。
 でも、その日は少しスマホを手に持ち、若干困った素振りを見せながら「シフトが決まってから連絡するね」とだけ言われた。
 彼女は正社員、シフトはない。全てを理解した。
 帰り道、彼女の方からいつものように話題を振ってくれた。でも彼女は泣いていた。多分、人生で最初に振る覚悟をしたのだ。今日が最後だと分かっていたのだと思う。
 家に帰った後、いつものようにお礼のラインをした。もう既にわかっていたのだが、一応スタンプをプレゼントしてみると、「すでにこのスタンプを持っているためプレゼントできません」の文字。

 相手との居心地の良さあったが、やっぱり、二人の間では生きてきた経験が違った。しかも遅い方が合わせるようなパターンで、遅い方は彼女だった。負担が大きかったのだと思う。特に恋愛経験のない彼女にとって、距離の詰め方の早さが悪かった。僕の中ではそんなに焦ったつもりはなかったが、相手にとっては性急だったようだ。
 最初はほとんど自分のせいだとも思った。大して顔もよくないのに無駄に恋愛経験があって、女性と話せる僕は非常に中途半端なのだ。逆に一度も恋愛経験がなくて、距離を詰めるのが怖いぐらいならもっと上手くいったかもしれない。でもそうしたら、逆に彼女とここまでコミュニケーションをとって近寄れなかったかもしれない。
 そう考えると、やはりこれは「運命」だったのだと思う。何故なら、恋愛する以上はその距離を詰める必要があるわけで、いつかは許容しなければならない。だから、僕という男性との接触を含めて彼女の経験が積み重なって、どこかで距離を詰められる許容量が増えて、いつか誰かと幸せに結婚するのだと思う。
 だからこそ、言いたい。出会いにありがとう。僕は今この年になって、「運命」というものの存在を把握した。そして今まで僕は「運命」を自分の手でつかみ切れてなかったことがよくわかった。初恋の相手に告白できなかったこと、彼女がいたのに東京から帰ってしまったこと、姉さんへの告白が遅かったこと、どれも「運命」はあったのだ。だが、それを僕は「引き寄せなかった」のだ。
 故に、大変うさんくさいセリフではあるが、こう言いたい。「出会ってくれて、本当にありがとう」。非常に良い勉強となった。