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つまりそういうこと

三島由紀夫「美しい星」読書感想文 長い

どうも僕です。今回は、三島由紀夫「美しい星」の読書感想文です。
 最初200ページくらい読んで、ちょっと放置してたので前半の記憶が相当うろ覚えなので、要約は許してね!でも、たぶん誰よりも解釈はしっかり書いてると思うので、読んでください。それくらい面白かった。

 ということで要約。
 時代は冷戦時代。フルシチョフやら、ケネディが核開発をしていた頃、水爆が完成した頃です。主人公は、大杉家の大黒柱の重一郎。財産でのんびり暮らしていけるような高等遊民をやっています。
 いつも通りの生活を送っていた重一郎は、突然目の前に現れた円盤を見て、自分が宇宙人だったことに気づきます。なんと火星人だったのだ。
 そして、大杉一家全員が徐々に目覚めていきます。妻の伊余子は木星人、長男の一雄は水星人、妹の暁子(あきこ)は金星人と、家族なのにバラバラな星からやってきたのです。
 一家は宇宙人になったので、地球の未来がはっきりと見えるようになります。水爆によって、世界の滅亡を予見したのです。人類がこのまま滅亡するのは見過ごせない、と重一郎は「宇宙有朋会」を結成、平和の大切さを全国で演説していきます。
 一方金星人暁子は、文通で知り合った同じ金星人の竹宮と一緒に空飛ぶ円盤を見ます。家に帰ってしばらくすると、妊娠していたことを知って、彼女は自分が「処女懐胎」をしたと思い込みます。さすがの重一郎も人間の父親に戻って、妊娠したからには話をしなければいけないと、竹宮の家を探します。ところが、この竹宮は金星人ではなくて、ただのヤリチンの地球人だったのです。重一郎は優しい嘘で、「竹宮は金星に帰った」と暁子に告げます。
 そんなお家騒動をしている間に、一雄が右翼の政治家である黒木の元で私設秘書となります。仕事の一環で黒木の知り合いの羽黒という大学の助教授と、友達二人に東京案内をします。その夜、三人と黒木が宇宙人であることを知り、また反対に父親が火星人であることを教えます。
 日は変わって、羽黒たち三人が重一郎の家を訪問します。そこで彼らは自身が白鳥座星雲から来た宇宙人だということを告げ、人類を滅ぼすべきだという主張を展開します。人間は「事物への関心」、「人間に対する関心」、「神への関心」の三つの関心を持っており、勝手に滅ぶ。よって阻止する意味もないから、さっさと滅ぼしてしまうのがいいと言います。これは後で解説します。
 それに対して、重一郎は二つの反論をします。一つは人類が平和でいられないのは、平和に満足できないからで、満足できる平和の一瞬を保存すれば人類平和だという。もちろんすぐにそんなん無理だって反論されますがね。
 二つ目の反論、それは人間の虚無の連帯。人間の唯一の共通点は生きていること自体の虚無であり、そこを皮切りに争いをやめるということです。何やっても意味ねえし、戦争もやめよwwwってことですね。
 そして最後に人類の美点として
 『地球なる一惑星に住める

  人間なる一種族ここに眠る。

  彼らは嘘をつきっぱなしについた。

  彼らは吉凶につけて花を飾った。

  彼らはよく小鳥を飼った。

  彼らは約束の時間にしばしば遅れた。

  そして彼らはよく笑った。

  ねがわくはとこしなえなる眠りの安らかならんことを』
 と語り、この美点から、「きまぐれ」によって滅亡を逃れるだろうと主張しますが、羽黒たちにボコボコにされて、ついでに胃癌でぶっ倒れます。
 そして、ラスト、死ぬ間際、家族で円盤を見に行きます。一雄が「われわれが行ってしまったら、後に残る人間たちはどうなるんでしょう」と聞くと、重一郎は「何とかやっていくさ、人間は」とつぶやいて死んで終わり。

 
 非常に面白い話でしたね。最初宇宙人とか言ったときは、何言っとるんだと思いましたし、金星の処女懐胎の辺りで、いい加減飽きてきて読むのやめてました。でもその続きが熱かった・・・。
 ちなみにこの処女懐胎とか、神秘体験っていうのも、実は人類連帯の一つの試みなんです。孤独な人間同士が唯一、同化に近づいていく試みがセックスなんですね。これはバタイユの「エロティシズム」読んでください。まだ、序論しか読んでないので今度読んだら解説しますね^^ あと金星ってのは処女の象徴です。これ豆な。

 さて、三つの関心の解説します。
 物への関心は、物への執着が最終的に水爆を使ってしまうという話ですね。宝石みたいなくその価値もないものにさえ、関心を向け、価値を与える人間たち。さて、水爆は破壊のみを目的とした「物」です。使わないということはその価値は存在しないわけです。そうすると、いつか価値を与えたくなるので、押してしまうということですね。どうなるんだろうという関心に耐えられないので押してしまうわけです。
 人間に対する関心は、人間の存在の根源的な孤立によるものです。例えば、誰かが車にひかれて血まみれになっているとします。みんな野次馬になって、見にくる。これが人間に対する関心。人の恋愛事情とか、趣味とか、休日の過ごし方とか、みんな聞きたがるアレですね。ところが、どんだけ関心を持ったところで、それと同じ経験を体験できない。例えば、同じご飯を同じ時間に食べられないでしょ?
 ここで、二つの発想が出てくる。一つは孤独で居続けることですが、人はそれに耐えられません。二つ目は、みんな同じだろう!と思うこと。これが国際平和ってやつですね。でも、いくら人類皆兄弟といっても、根源的な孤立は避けられない。じゃあ、究極の同じ体験ってなんだろう?と考えるとそれが一斉に死ぬこと。そこで水爆を使っちゃうという論理ですね。
 最後の発想が、神への関心。神ってのは絶対性の観念のことですね。世の中の全てのことは相対的で、絶対的な意味がないんです。そうすると世界は完全に虚無ということになって、生活すべてが虚無になるわけです。以上の事実を人間は長い間、神を使ってごまかしてきたんですが、科学の発展によって神は消えてしまった。こうした歴史の流れを見ると、虚無に向かっているので、最終的には水爆を押すというわけです。ただその時もやっぱり、神に祈りながら、ごまかしながら押してしまうだろう、と述べています。

 人類平和ができない原因の一つが、平和が時間に縛られてるという話がありました。これはですね、つまり長い戦争の後の平和とか言うように、何か悪いことがあった後の平和はみんな喜ぶんですけど、平和が長続きするとみんな飽きてきて、結局戦争しちゃうってことです。だから、いい平和の瞬間をずっと維持しようっていうとこですね。
 

 さて、僕がガチ泣きしたところがあります。その時、僕は座って読書する場所が思いつかなかったので、山手線で読んでいました。青ざめた顔をしたキモヲタが、本読みながら急に泣き出す。今思うと、とてつもなく気持ち悪いですねぇ・・・。以下、その文章。

 「歴史上、政治とは要するに、パンを与えるいろんな方策だったが、宗教家にまさる政治家の知恵は、人間はパンだけで生きるものだという認識だった。この認識は甚だ貴重で、どんなに宗教家たちが喚き立てようと、人間はこの生物学的認識の上にどっかと腰を据え、健全で明快な各種の政治学を組み立てたのだ。
 さて、あなたは、こんな単純な人間の生存の条件にはっきり直面し、一たびパンだけで生きうるということを知ってしまった時の人間の絶望について、考えてみたことがありますか?それはたぶん、人類で最初に自殺を企てた男だろうと思う。何か悲しいことがあって、彼は明日自殺しようとした。今日、彼は気が進まぬながらパンを食べた。自殺は一日のばしに延ばされ、そのたびに彼はパンを食べた。・・・或る日、彼は突然、自分がただパンだけで、純粋にパンだけで、目的も意味もない人生を生きえていることを発見する。自分が今現に生きており、その生きている原因はまさにパンだけなのだから、これ以上確かなことはない。彼は恐ろしい絶望に襲われたが、これは決して自殺によっては解決されない絶望だった。何故なら、これは普通の自殺の原因となるような、生きているということへの絶望ではなく、生きていること自体の絶望なのであるから、絶望がますます彼を生かすからだ。」
 
 思わず自分と重ねてしまいました。意味欲しいなぁ~って思うといつまでたっても死ねないんですよねぇ・・・。だって、死ぬことは解決策じゃないんですよ。死ぬのも意味ないですからね。でも、何やっても意味ないことは僕の脳みそに染みわたってるんです。だから、仕事なんかも何やっても意味ねえなぁ・・・って思って、何一つ楽しめず、最終的にごはんを食べることだけが個性の機械になってるんだなぁ・・・とか考えに至って、悔しくて朝昼とごはん食べてませんでした。こんなこと考えてるから、過呼吸になって鬱になるんですね。読書なんてするもんじゃありません。
 無意味ってことがものすごく辛い・・・。皆さんは無意味が辛いと思うことないですか?ないならまだまだ幸せだと思います。
 
 で、最後のわけのわからない詩ですけども、これはですね、人間が虚無に対してどうやってうまくやってきたかということを象徴しています。
 嘘をつきっぱなしについた。これは虚無という真実から目を背けるための、神だとかそういう嘘ですね。
 吉凶につけて花を飾った。これは、悪いことも一瞬だからがんばってこ!ってそういう前向きな姿勢ですね。
 小鳥を飼った。小鳥を飼うことで、自分が自由だって思う前向きな感じですね。ホントは全く自由じゃないのにね。
 彼らは約束の時間にしばしば遅れた。時間はどうにもならないってことを、忘れてるってことですね。
 そして彼らはよく笑った。笑って、虚無を忘れるってわけですね。
 なんも考えないってハッピーってことですよ。

 ということで、感想文終わり^^^