うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

それは、ちょうど手に掴めるほど大きさで、表面がなだらかな楕円の球形で、灰色の、どこにでもある石でした。違うのは、傷から光が出ていること、そして、おじいさんの勘が、まさしくこの石に、引っ張られることです。かすかな希望が見えました。これこそ、家への手がかりかもしれません。薄目を開けながら腰を屈めて、手を伸ばして掴みました。すると不思議なことに、光が徐々に霧に変わって、意識が遠のいていきます・・・。
 目が覚めるとおじいさんは、布団の上に仰向けになっていました。見慣れた畳があって、時間を経て黒ずんだ木の壁で囲まれており、左側だけ襖で、隣の部屋につながっています。右には檜のタンスが据えられており、仰向けになって上を見ると、床の間に、お気に入りの掛け軸があります。どうやら、家にいるようです。
 あれは、夢だったのでしょうか?ご飯を作っている音が聞こえます。おばあさんがいるのでしょう。軋む身体に力を入れてゆっくり立ち上がり、襖を開けると、目の前に大きな岩がありました。天井までわずかな隙間しか残さず、板の間の真ん中に居座っており、土間が見えません。表面はなだらかな楕円の球形で、灰色です。悪い夢だ。そう思ってみても、腰の痛み、岩の感触に家の匂い、五感は明らかに現実でした。左に一人分の通り道が残っていたので、そこを通って、土間に進むと、おばあさんがいました。
「ばあさん」
「ようやく起きたんだね」
 岩を全く気にせず、普段通りの返事が返ってきました。
「この岩はなんじゃ?」
 単刀直入におじいさんは切り出しました。
「爺さんが綺麗な石をもってたから、机の上に飾ったのよ。そしたら、どんどん大きくなって今じゃこんなになっちゃったよ」
「あの石がこんなに・・・」
 どうやら、山で光っていたあの石がそのまま大きくなったようです。確かに大きさ以外は、よく似ていました。勘を鈍らせ、光を放ち、今度は巨大化。もう驚きませんでした。
「あっ」
 おじいさんは、もっと大事な事に気づきました。
「そもそも、わしはどうしてここにいるんじゃ?柴刈りに行っておったが」
「山の入り口で倒れてたのを、村の人が見つけて運んでくれたんだよ。それより、もう元気なのかい?」
「怪我もしとらんし、無事みたいじゃ」
「そうかい。」
 またしても、普段通りに答えながら、松茸を刻んでいます。勘は正しかったのです。いつも通りではありませんでしたが、はっきりと帰り道を示していました。
「それはわしのもってきたやつか?」
「それ?あぁ、松茸かい?そうだよ、じいさんが腰に結んだ袋に入れてたやつだよ」
 石に松茸。二つがあるということは、石に触るまでの出来事は現実だったようです。
「岩はどうしよう」
「さぁね、昼に村の若いのに運んでもらおうとしたんだけど、びくともしなかったよ。引っ越すしかないのかもねぇ。帰りが遅いと思ったら、とんでもないものを持ってきたもんだよ、まったく」
「昼?」
「そうだよ、あんたは今日の朝入り口で見つかって、一日中寝てたんだよ。医者まで呼んで大騒ぎしたのに、何の問題もないようだね。散々迷惑かけて、岩まで持ち込んで困ったもんだよ」
 徐々語気が荒くなってきました。長年住んでいた家を、夫のせいで移動しなければならない状況に追い込まれて、苛立ちを隠せないようです。
「すまんのう」