うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

36

「おい、起きろ」
 山中の何かが喉につまったようなかすれた声が俺を現実に戻した。考えながらずっと眠れずにいたのか、気づかないうちに寝ていたのかわからないが、たぶん後者だろう。世界の中に戻ってきていた。
「徹夜?」
「それで寝坊しないように先に来たんだよ」
 教室はいつもどおり、無数の音によって埋め尽くされていた。
「昨日、歩美ちゃんがお前の家に行っただろ?」
 はっとして周囲を見渡すと、誰もがこの会話に聞き耳を立てているように見えた。彼女と会っていたという事実が知られてはならない重大な秘密のように感じられ、全てを隠したい衝動に駆られる。
「なんでわかるんだ」
「お前の顔が健康そうだからだよ。ご飯作ってもらったんだろ?」
「まぁそんなところだよ」
 とにかく言葉を最小限に抑えて、その場を終わらせようとする。
「可愛いよなぁ、あの子」
 不吉な響きを感じて、すばやく友達の表情を見上げる。同じ高校からここにやってきたものの、新次郎を通して互いを知っているに過ぎない関係で、話すことも稀であったが、その一言が引き金となって、新たな想像が二人を結びつけた。