うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

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聴覚が極端に敏感になったようだ。鼓膜を指すような無機質な小さな音が聞こえる。真の意味で無音になることは宇宙でしかないことがよくわかる。この狭く音のする余地が自分しかない場所でさえ、妙な音が聞こえてくる。何の音だろうか。自分の中の出ていない音も聞こえてくる。
「静かにしてくれ!」
既に静かな部屋で一人叫んだ。新次郎はこれを発作と呼んでいる。当初は栄養不足で幻聴が見えているのだと思ったが、実家に帰って十分な食事をとっているときでも起こったからそうではないだろう。もちろん精神病も疑ってみたが、いい事があって幸せなときでも起こったからこれも違っていた。聞こえる声はまたしても貧困の話をし始めた。貧困から抜け出すのであれば生活保護でも受ければいい。だが、これからエリートになる俺が人生に汚点を作ることは許されない。社会のすねをかじるより、未来の自分のすねをかじる方が余程いい。さすがに恥ずかしい。俺は生活保護者と違うのは未来の自分に頼ることができる点だろう。エリートになれなくても、人より少しくらい上の生活はできるだろう。ちょっと待て、根拠はなんだ?今の俺は誰も話しかけることすらないホームレス同然の男だ。将来なんてあるのか?
「おい、大丈夫か?」
どうやら、山中が心配して様子を見に来たらしい。
「大丈夫じゃないけど、長くなりそうだから先に帰ってくれ。」
「今にも餓死しそうな友人をほっておけんだろ。」
「いいから、帰ってくれ頼む。一人にしてくれ、ご飯はありがとう。またな」
「何を言っているんだ。」
「お願いだ!帰ってくれ!」
気づけば、涙を流しながら懇願していた。静寂に包まれた密室の中で何かに縋るように響く。
「わかった。帰るから、落ち着いたら連絡でもしてくれ。」
山中は諦めたような声でそう言うと、外に出て行った。