今日も熱血先生の話を書こうと思ったのだが、どうしても続きが書きたくなくなってしまった。だからある一日について書こうと思う。
時は令和。僕はその日少林寺拳法の稽古をしていた。少林寺拳法はあまり実践向きでないことで有名な拳法である。体操程度に少林寺拳法を極めていた。
鶴の構えをするも、老師に背中を思い切り杖で叩かれ、顔面から地面に崩れ落ちた。そのあとはうさぎ跳び。赤を基調としたぱっと見神社の様に見える寺の前には石段があって、いつもうさぎ跳びで往復5回。段数は50段ぐらい。
一通り修行が終わると薬膳火鍋で内気功を鍛える。これぞ飯トレである。
さて、そんないつもの修行を終えて家に帰る。街路樹もないただの道。周りは小さな家か、田んぼが立ち並ぶ街並み。途中、横断歩道が赤信号だったので待っていると、ホームレスが一人。凄まじい異臭を放つ彼は手を差し出して
「あぅあ、あぅあぅあ」
と笑顔で話しかける。歯は抜けていてほとんどない。何よりも悪臭がすごい。当時はコロナではなかったので、マスクをしていなかった。だから、直接鼻の神経に強烈な空気が襲ってきた。
「なんですか?」
と尋ねると
「あぅあ、あぅあぅあ」
の一点張り。今思えば話しかけたのが本当に悪い。青信号になって横断歩道を渡ろうとすると、ホームレスが後ろについてきた。
ついてくるおっさんにこれ以上絡むともっとひどいことになる。だから、僕は後ろに悪臭を感じながらも引き離そうと黙々と歩いた。
真っすぐ歩いたように見せかけて裏路地へ、そこから急に陸橋を登ったりしてホームレスの足をつぶす作戦をとったのだが、先ほどのうさぎ跳びが響いて膝が痛み始める。帰り道は山を一つ越える。粗挽き峠と呼ばれるその峠は、膝が粗挽きソーセージのようにぐちゃぐちゃになることから、地元の小学生たちに恐れられていた。僕は少林寺拳法を極めるためにあえてその峠を越えて家に帰っている。
あまりに急こう配なので、峠の入り口付近では坂の終わりが全く見えない。そんな無謀な道を可能な限り早く走って登るのが修行である。ここまでくると呼吸がどうのこうのよりも、足の筋肉が攣りそうになる。ランニングなのに筋トレの様になるのだ。
そんな坂を急いで駆け上っていると、異臭が後ろから漂ってくる。まだホームレスがいるらしい。後ろを振り返ると笑顔で手を出していた。
「もうついてくんじゃねえ」
と手で追い返そうとすると
「あぅあぅあぁ~」
と返され、何事もなく居座っている。僕がその汚い体に触れることが嫌で、強硬手段に訴えることはないだろうとわかっているので、奴も余裕である。
結局峠を越して自分の住む町の入り口までついた。ようこそ〇〇市へ、そう書かれた看板が目印である。そろそろまずいな、と思った。家までついてこられては困る。どこかで振り落とさなければと思った。
まずはコンビニに入った。僕が入ると店員が嫌そうな顔をして見つめてくる。正確には僕の後ろの異臭の源を見て、顔をしかめている。それでも僕は知らない振りをして買い物っぽいことをする。雑誌コーナーから、奥のペットボトルの棚へ。一度選ぶ振りをしながら弁当コーナーへ。もう一度レジの前を通り、お菓子の置いてる棚を過ぎ、再度ジュースの棚の前へ。
そんな感じでふらりふらりと回り、奴を連れまわす。そんな妙な時間の中で隙をついて、一瞬でトイレに駆け込んで急いで鍵を閉めた。これで安心。とりあえずずっといることはないだろう。いたとしても、店員に通報されて終わりである。
ちょっと迷惑かな、と思いながらも大便をする素振りを見せながら10分ぐらい硬気功を練る練習をした。硬気功というのは非常に難しくて、システマの様に痛くないと勝手に思い込むのと違って本当に硬くなるのだが、気を集める高い集中力がなければ成立しない。下手に狙って、殴られる時にやろうとして失敗、思い切りボディブローが入ってゲロを吐いたこともある。
ちょっと疲れたのでまた明日この日のことを書きます。終わり。