うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

帰りの電車での愉快な出来事

 ここ最近、コートを着ているのに、身を震わせながら出勤している。手袋を持っていないから、スマホを持つ指も動かない。東京では大雪らしい。今朝のニュースでは、除雪されてもなお白が広がる、東京駅の映像が流れされていた。

 岐阜はまだ降らない。明日は積もる、と会社の終礼で次長が言うのを何度も聞いた。その度に、朝四時に目覚ましをかけてきたが、全て無駄であった。今日の帰りも警告された。予報は晴れであるが、不安に満ち溢れていた帰りの電車、私はフーコーの「言葉と物」と格闘していた。

 400ページ中、50ページしか読んでいない。文字が小さすぎて、目が非常に疲れる。仕事でくたびれた後に自分を追い込むストイックな男である。当然、そんな状態で読めるわけもなく、窓から外を見つめたりしていた。

 斜め前に一組のカップルが座っていた。女の方は丸顔のブスだった。鼻は丸く、目は小さい。ふくよかな頬も相まって、肉まんのようだった。体型はもちろん小太り。着太りだと仮定しても、デブだというのが見て取れた。一方、男は微妙にイケメンで、モテそうな雰囲気を醸し出していた。薄顔で、鼻はすっきり通っている。しかし、目は細く眉毛がやけに太い。

 これこそ高校生にありがちな、ブスでもよくしゃべる奴は彼氏が出来る、という珍現象であろう。そういうブスに限って恋愛に鋭く、アピールを欠かさないので、運悪く中学時代にモテなかったイケメンは、人生に汚点を残してしまうのだ。イケメンだって最初は童貞なのである。キモータ童貞だけが、よくしゃべる女の子を好きになるわけではない。

 平凡なカップルに私が目を向けたのは、ブスが何故か怒っていたからである。

 「もう話しかけないで!」

 というブスの声が聞こえ、私の意識が吸い取られた。なだめるようにイケメンが、顔を寄せる。こりゃかっけぇ・・・と思う間もなく、ブスがふてくされた顔でそっぽを向いたので、敵意が私の心を満たした。可愛い女性がやるから、愛おしいのである。ブスがやれば、餌を目の前で取り上げられた豚でしかない。

 しばらくすると、ブスが男の方を振り返った。そして、急に指を折りながら、口を動かした。小さな声だったので聞き取れなかった。

 「俺を怒らせたな、お前の残りの人生をカウントダウンしてやる。5,4,3,・・・」

 とでも言っていたのだろうか?

 「今日の夜ご飯は、とんかつに、カレーに、牛丼に、ビックマックに・・・」

だっただろうか?

ふざけた想像が止まらず、結局何について怒っているのかわかりかねた。指を数えて怒るなんてことは、私の人生で一度もない。

こうした大喜利のようなことを脳内でやっていると、女は急に笑い出した。全く訳が分からん。吹奏楽部の頃から、いや、小学生の時からそうだったが、あいつらの気持ちはつかみどころがなさすぎる。ある程度の傾向はあるが、何度も予想の遥か上を行くのが奴らなのだ。

イケメンのほっとした表情を見て、私も一緒にほっとしたのも束の間、ついにブスと目が合ってしまった。瞬時に目を逸らしたが、間違いなく警戒されてしまっただろう。女性というものは視線に対する観察眼が異常に発達している。あの豚の性別がどう見えるかという問題はさておき、やはり性別上は女だったのだ。

こうして、もう一度見ることはかなわず、私は電車を降りた。久しぶりに女性という生物を再認識するとともに、元カノとの日常を思い出しながら、徒歩で自宅まで帰っていった。体に冷たい風を受けながら。