うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

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どうも長年の付き合いからか話しすぎる。ついでに無駄な勇気を振り絞って墓穴を掘って、いつも助け舟を出されて、ここにやってくる。デュシャンの『泉』を見たとき、それが故郷であるかのような安心感を得た。世界で最も孤独な空間にある椅子こそが便器である。誰も中には入ってこれず、ドアを叩くくらいしか干渉できない。そういえば、人は常に孤独だった。そうか!『泉』は人生を表していたんだ!芸術家が聞いたら、怒るかもしれないな。一人で思わず、笑ってしまった。
「何笑ってんの?」
外から干渉が入る。味噌のしょっぱさが鼻の奥に流れこみ、味覚に働きかけていることにも今気づく。その中に痛めつけるような辛い匂いが混じっている。麻婆豆腐でも作っているのだろうか。素を使わずにわざわざ材料から作るなんてよっぽど暇だな。
「麻婆豆腐?」
「そうだよ、豆腐は栄養が豊富だし、何より安い!」
「調味料だけあればあとは豆腐とネギさえあればできるもんな」
灼熱の中華鍋の上で鶏がらスープが蒸発する音と共に、味噌の霧がトイレの中にまで立ち込める。から揚げを食べたばかりなのに食べたくて仕方がない。
「お前、俺よりその中華鍋使ってるよな」
「新ちゃんって無駄な買い物多いよねー」
俺が言えば皮肉になるようなことも、純粋な親しみに聞こえるのは付き合いが長いからだろうか。それとも誰にでも通じる才能なのだろうか。
「あれは一目惚れだった・・・」
「そんな訳のわからないこと言ってないで、そろそろトイレから出てこっち来てよ」
大袈裟に言ったからウケると思ったのに、反応が薄い。ちょっとがっかりしながら、何も出していない尻を拭いて、トイレを出た。