うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

首に巻くは赤い情熱のマフラー

ドアを開けると雪国であった。靴が白くなった。赤信号で車が止まった。

横断歩道を渡ると、老夫婦が道に迷っていた。もちろん、無視した。

さらさらの雪は風に流され、傘をすり抜ける。すぐに私も雪国になった。電車は雪だるま式に遅延する。私は帰り道を走り抜けた。

駅に着いても雪を払わずに、ホームに向かった。中学生の下校と被っているらしい。いつもと違って若い熱気に満ち溢れていた。

背後に階段の仕切りがある、人が少ないところで待っていると、一人の女子中学生が私の隣に並んだ。赤いマフラーに顔を埋め、寒さに震えている。中学生の頃の初恋を思い出す。彼女も同じ色のマフラーを同じように巻いていた。そういえば、あの時・・・。

「ルートは変数じゃねえ!」

と、謎のツッコミとともに、中学生が目の前を駆け抜ける。私の回想はぶち壊された。ルートは変数じゃない?そりゃ当然だ。正しいよ君。しかしね、何が面白くてそんなくだらない一言で、私の綺麗な思い出をぶち壊したのかな?

    気づけば電車が到着していた。大雪にも関わらず、大して待つことはなかった。

    車内も一番前に並んでいれば、座れるくらい余裕があった。

    斜め前の端っこの席に女性が座っていた。マフラーに顔を埋めながら眠っている。

    前髪は自然に右に流れており、丸く小さな顔の輪郭をなぞるように、髪がふんわりと膨らんでいる。目を閉じていても、瞳の大きさがわかった。頰の膨らみは幼い柔らかさがあり、紅潮している小さな鼻がマフラーに触れていて、非常に可愛らしい。

    あの子に似ていた。男友達そっちのけで、休み時間に話していた日々。まるで先生など最初からいないかのように、授業中も話し続けた。当時はそうした事情に疎かったから、自分たちがどう見えるのかも考えたこともなかった。

    突然、電車が止まった。ドアが開いた。冷気が車内に吹き込んできた。上はスーツとシャツとヒートテック、下はスポンとパンツのみ。このアンバランスな服装が社会人の正装だというのは本当に不思議である。タイツを履いてまでスカートを履く女性はなお得体がしれぬ。

  「三番線の電車が十分ほど遅れていますので、到着を待っております。しばらくお待ちください。大変ご迷惑をおかけしております」

    案の定の遅延である。なお悪いことに、こちらの電車は遅れていない。しっかりと駅に停車している。乗客が入れるように、ドアを全開にしたままである。

    駅員は何も感じないのだろうか。乗客は震えているんだから、誰か乗る人が来たら都度開け閉めしてはいけないのだろうか。遅くなるだけならともかくこの寒さは耐えられない。

    ふと、赤いマフラーの子を見ると、まだ眠っていた。窓の外は真っ白で、ドアからは風に流された雪が舞っているというのに。

   幻なのだろうか。あの美しい少女は、この車内で隔絶された存在を秘めていた。私もあのようになりたい。あらゆる記号から解放された存在そのもの、何か一瞬でも触れれば価値を失うあの生の存在に…。

    私の目の前に絶望が舞い降りたのはこの時である。彼女がマフラーから、醜い顔を出したのである。鼻は大きかった。顎はしゃくれていた。顔は長く、可愛さのかけらもない絶望的な出っ歯であった。マフラーによって鼻は小さく、顎は隠れて顔が小さくなり、口も見えなかったのである。

   儚い夢は散った。一瞬動いただけで美は崩れ去った。残るのは寒さのあまり不機嫌そうな表情を浮かべたブスだけである。現実主義者はこの弊害を知らないのだ。欺瞞こそが人生を生きる最良の道具だということから逃げている。実際私は裏切られたのだ。このクソブスに。

   ゲロが出そうなこの体験をどうにかしてもらえないだろうか。私はよくこうした裏切りに会う。夢見がちなせいだろうか?それとも人間である以上、マフラーやら後ろ姿やらで前向きに考える癖があるのだろうか?

    女性の側からすれば迷惑千万だろう。勝手に想像して置いて、裏切られたとはふざけた話である。

   たがそれでもいいたい。期待させんなボケ。赤い情熱のマフラーなんて巻くんじゃねえ、マスク外せ、と。角度詐欺?光詐欺?そんなことするくらいなら写真とんなボケ。

    おやすみ。