うひょーくんのブロマガ

つまりそういうこと

海外旅行その1

 真っ赤に輝く日がわずかに傾き始め、私たちの顔を照らす。もう六時を過ぎたというのに沈まない太陽が、この地を常夏にしている。腐ったパーム油が、太陽に蒸されて強烈なにおいを漂わせている。吸えば、体中が油の靄に汚染されたような気分になり、反射的に嗚咽する。

 駅のホームに日本人三人は立っていた。ちょうど到着した電車は混雑のあまり乗れず、次の電車を待っているところだ。私が「また入れんかったら困るから、少しでも空いてそうな先頭に行こう」と提案し、ホームの奥の方まで歩いて行った。

 旅行用のリュックを前に抱え、その間に小さなカバンを挟んだ妙な格好で歩く。いかにも日本人といった風貌だ。鉄道オタクの友達は線路をじっくり眺めている。私には素晴らしさがさっぱりわからない。

 すると、いきなり警備員が英語で私たちに話しかけてきた。友達曰く「女性専用車両だから、あっちいけ」と言われたらしい。日本と違って厳しいようだ。

 鉄道オタクの彼はこの旅行を計画した中心だった。過去にもフィリピンに来ていて、風俗嬢と仲良くするために英語とタガログ語を勉強しているそうだ。京大卒だから頭はいいのだが、いい感じに使う方向を間違えている男である。

 待ち時間の間、私はホームから見える外の景色を見ていた。遠くには高層ビルが立ち並んでいる。地震がないから、日本のそれより高い。東京にも負けず劣らずの摩天楼である。

   視線を下にやると、廃材を集めて雨を凌ぐだけの家が立ち並んでいる。道に人が寝ている。ボロ小屋の一つは飲食店らしい。ハエにたかられながら、ドロドロのフルーツジュースのようなものを食べていた。富と貧が隣り合わせになる異様な光景は、この国の日常であった。

 ホームは新しいはずなのだが、小汚かった。何よりくさい。友達曰く、フィリピンの鉄道は日本が輸出したらしい。どれだけしっかり作っても掃除する習慣がなければ、こんなものである。

 もう僕たち三人の他にも人が並び始めていた。この国では列に並ぶ習慣はない。なんとなく入り口付近に人が集まって待っているのだ。

 電子板に電車の到着時刻が表示されるのは日本だけだ。この国にはそんなものはない。だから私たちにとって、待ち時間は非常に長く感じられた。非常に疲れていたので私は無言だったが、友達が急ににやにやしながら、

 「うひょーも今夜はまた楽しむやろ?」

 と言い始めた。もちろん夜とはそういうことである。昨日の夜は楽しんだ。まともに言葉が通じなかったが、友達の通訳でうまくバーファインできた。私は夜のお金を考えて、鞄から財布を取り出し、何ペソあるか数えた。

 「とりあえず、向こう着いたら両替しようか」

 と遠回しに賛同の意を示した。当初は全然期待していなかった。ネットで画像を調べると、化粧が濃いだけのおばさんがたくさん出てきたからだ。

 しかし、私は当たりを引いた。小さい顔に大きな黒目で、化粧もしない純朴さがあった。大変可愛い。酔った勢いで「ユーアーソーキュート」と連呼し続けた。大学生で20歳とのことだった。手慣れた風俗嬢というよりは素人で、反応も初々しく興奮した。俗に言う名器で、普段は遅い僕も結構早く終わってしまった。

 外国人のセックス用語は結構面白い。例えば、まんこを指して、「Eat」と言ってくる。当然私はEatしたわけだが、最終日に風邪を引いた。あわびの食中毒にかかってしまったようだ。Dog Styleもちゃんとしたが、あれは難しすぎる。とにかく抜けてしまうので、すぐにやめた。

   本番はできたが、キスはできなかった。彼女が歯の矯正をしていたからである。相当費用がかかっただろう。意外と育ちがいいのではないか、とも考えた。立ち振る舞いは風俗嬢特有の野蛮さがなく、妙に品があった気もするからだ。

   と、まぁ大変有意義な夜を過ごした私であったが、とにかく疲れていた。腕が重い、足が重い、瞼が重い。もう今日はやる気を失っていたから、力なく作り笑いで返した。「もうそろそろ来るやろ」と何度も繰り返しながら、立ち尽くしていた。

   「あっ、来た!」

    友達が電車の方を指差した。ガタンゴトン。地鳴りを上げながら、その姿を現した。先頭車両はあまり混んでいなかった。

    「今度は余裕で入れそうやな!」

  と私が言った矢先、そこが女性専用車だと言うことに気づく。

    落胆しながら、止まるのを待っていると、袋詰めされた人間ソーセージが眼前に現れた。三人は今度こそ乗ってやるぞ、と息巻き、全力で突撃した。フィリピン人が先に入ろうと横から突っ込んできて、私は押し出されかけた。「東京で鍛えられたガードスキルをなめるなよ」と心中で叫ぶと、その妙なプライドで男を突き飛ばし、我先にと突っ込んだ。

 ブロックを撥ね退けて友達と団子になってタックルを決める。が、びくともしない。人口密度が高すぎて中に押し入ることすら許されない圧倒的な人間の壁。重い台車を押すように前傾姿勢になり、腰をいれ、体重で押し通る。

 押したおかげで前の二人は入れたが、もう限界。私は奥に行けない。友達二人は既に中に入っているのを見て、体に余計に力が入る。もうダメかもしれない。そう思った矢先、私は後ろから押された。別のフィリピン人が乗ろうとして私たちを押し込んだのである。潰されて体中が痛かったが、なんとかなりそうだった。

 押したフィリピン人の一人は、ドアの上の出っ張りを掴んで耐えたが、もう二人は入れずに、無情にもドアが閉まった。可哀想に・・・。サンキューフィリピーナ・・・。

 車内はフィリピン臭が立ち込めていた。妙に甘ったるい南国の果実の匂いだ。彼らは毎日食べる習慣があるのか、体臭まで甘ったるい。それどころか、フィリピン風雑炊も、カレーも、チキンも全てにフルーツの隠し味がついている。たぶんマンゴーだ。匂いも味もマンゴー。ちなみに日本人は醤油の匂いがするらしい。醤油とマンゴーが同じ立ち位置にあるのは全く理解できないが、異文化とはそういうものらしい。